| ドイツの戦略 |
 |
 |
| ドイツの環境保護の歴史と3つのファクター
|
 |
環境保護の目的
1994年ドイツ政府は国民に対し極めて重大な約束をしました。それは国が「次世代のために自然を守る責任がある」ことをドイツ基本法(日本の憲法に相当)第20条aに加え、保証したことです。国民にとって非常に重要なこの条項は、その後のドイツ環境保護政策の方向性を明示したといっても過言ではありません。
ドイツがいわゆる「環境先進国」と言われることにもなった最近の廃棄物処理をはじめとした自然・景観保護、気候変動防止、水質保全、土壌保全、大気汚染防止、危険防止、騒音防止、放射線の分野における環境関連法の制定は、環境保護の真の目的である「自然はもとより、人間や生き物の生活基盤を守り、地球環境を守り次世代につなげる」ための手法なのです。
「持続可能な発展」−ドイツの対応
ドイツは世界的に見てもハイレベルな環境保護政策を実行しています。その契機となったのは、まず1969年から1970年にかけてルール工業地帯で発生したばい煙による大気汚染でした。当時のブラント政権は選挙用スローガンの「ルールに青空を」を推進、これを機に環境保護運動が国内に広がりました。ドイツ連邦政府は1970年に動植物の生態を守ることを決めた「環境保護計画」を発表しました。この「環境保護計画」では、第一に健康で人間らしい生活をするために環境を守る、第二に大気・土壌・水質・動植物の生態系を人間の乱獲から守る、そして第三に人間の乱獲による破壊や損失を排除するということが謳われています。
次に、1972年にストックホルムで開催された国連環境会議でローマクラブ編纂の「成長の限界」が発表されてから環境に対する意識は変わりました。世界の人口は増加の一途をたどり、環境は汚染され天然資源が減少するという状況下では、今後100年以内に地球上の経済成長が限界に達する、と予測したローマクラブの報告は、少なからず欧州の政治家や市民、そして経営者に衝撃を与えました。それに加えて、深刻な大気汚染が国内で報告されはじめたことも国民の意識を環境保護、及びエコロジー的な生活基盤の形成へ向かわせました。しかし、当時はまだエコロジーはエコノミーの対極に位置して、むしろ経済成長にブレーキをかける“やっかいもの”という認識が強く残っていました。
一方的な自然収奪を繰り返す経済活動ばかりでなく、その経済活動の中に環境保護を組み込んでいく、いわゆる「エコロジーとエコノミーの共生」が可能であることに人間が気付くまでに20年ほどの歳月を要しました。私たちには、今、天然資源の利用を最小限にとどめながら、環境汚染を低減していくことが求められています。
20年後の1992年にそうした内容を「持続可能な発展」という言葉で表し、リオデジャネイロで開催された国連環境開発会議の共同宣言として発表しました。これは各国がその促進に共同責任を持つという世界に対する政治的なアピールでした。
これを受けてドイツ連邦政府は1970年初頭以降、主要な環境保護分野の9項目において徐々に進めてきた環境保護の法体系をさらに整備・強化しました。
- 大気汚染防止(二酸化硫黄・窒素酸化物排出)
- 地球気候変動の防止(CO2効果ガス)、オゾン層の保護
- 危険防止(危険物質からの保護、設備の安全確保)
- 廃棄物処理と物質循環 (廃棄物の発生回避・リサイクル、環境適正処理、廃棄物の越境処理)
- 土壌保全と既存負荷の除去
- 河川と海洋保護(水域保全の基本、地上の水域、地下水、河川氾濫防止、海洋保全)
- 自然保護、景観保護、森林保護
- 騒音対策
- 原子力安全・放射線保護、放射性物質の供給と処理 (核の安全性、放射線防護、放射性廃棄物の処理)
この9項目における環境保護を経済、エネルギー供給、農林、漁業、運輸などの分野で実施して、「持続可能な発展」が促進されるのです。
重要な3つのファクター
「持続可能な発展」を実現させるためには、エコロジーに配慮した社会システムの構築と適度な経済成長、そして充実した社会保障システムに基づく社会の安定化という三本柱の調和が重要なファクターとなります。
現代社会は経済的基盤がなければ成り立たないのはもちろんですが、今は経済活動のあり方が問われているのです。産業界は環境保全を企業の経営に取り入れるいわゆる“環境経営”を実践して、経済成長と環境保護をリンクさせ、さらに地球環境を守る技術や手法を提供します。国は法規制でそれを誘導し、消費者は環境行動でサポートします。経済活動は、もう一つの要素である社会の安定化にも大きく寄与しています。社会の安定化には医療・介護保険の整備、年金制度の確立と資金の確保、雇用の確保など社会保障制度の充実に加え、犯罪の防止など多くの要因があります。現代社会が安定し、成熟していかなければエコロジーへの対応どころではなくなり、経済成長最優先型の社会構造から脱却できません。地球温暖化で先進国と途上国の間で論争になるのはまさにこの点です。今まで20%の人口を占める工業国が地球の資源の80%を利用して得られた繁栄を、今度は途上国が同じように追求するのも当然なことかもしれません。解決策を見つけるのは容易ではありませんが、途上国への環境保全のための資金援助とともに、環境技術・機器の提供も問題解決に有効です。
この三つの要素のどれが欠けても、持続可能な発展は実現しないため、それぞれを巧みに誘導しなければなりません。ここで明らかなように、ドイツの環境政策の目的は、厳しい法規制によって企業に環境保全への対応を迫り、ドイツ独特の社会的市場経済の中でエコロジーとエコノミー、それに社会の安定化を一体化させることです。経済活動のすべての段階に、環境保護の考え方が取り入れられていることがその特徴です。このようなプロセスを経て「持続可能な発展」が段階的に実現します。
|
|
|